医療機関に対するメーカーからの金品提供について
ときどき、ニュースで医師やメーカーの従業員が贈収賄により逮捕されたといった記事を目にされる方もいらっしゃることと思います。
メーカーからすれば、自社の医療機器や医薬品を導入してもらおうと、医師の便宜を図るという動機が存在します。
贈収賄罪は、公務員に対する賄賂の場合に成立しますので、医師が国立大学病院の勤務であるといった場合に限られ、開業医や民間の医療機関に所属する医師については、成立しません。
ただし、公務員ではない民間の医療機関に所属する医師だったとしても、金品の提供を受けることが問題となるケースがありますので注意が必要です。
景品表示法第4条に基づき、取引を不当に誘引手段としての不当な景品類の提供を防止するために、業界団体が自主規制として景品類提供を制限していることがあります。
例えば、医療機器であれば、医療機器業公正取引協議会の定める「医療機器業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」(本稿作成時点での最新版は令和6年9月9日公正取引委員会及び消費者庁長官認定。令和6年9月30日公正取引委員会消費者庁告示第4号)が定められ、これを一般的には公正競争規約といいます。
業界団体の自主規制だからといって甘く見てはいけません。上記に「公正取引委員会消費者庁告示」とあるとおり、業界団体の自主規制ではあるものの、公正取引委員会及び消費者庁が認めた法的な効果のある規定です。景品表示法4条に基づき、「医療用医薬品業,医療機器業及び衛生検査所業における景品類の提供に関する事項の制限」が定められ、これに基づいて、公正取引委員会及び消費者庁が認定しています。医薬品は医薬品で公正競争規約が存在しています。
上記の告示を見ますと、違法な景品類の提供として
① 医療機関等に所属する医師、歯科医師その他の医療担当者及び医療業務関係者に対し、医療機器の選択又は購入を誘引する手段として提供する金品、旅行招待、きょう応、便益労務等
② 医療機関等に対し、医療機器の選択又は購入を誘引する手段として無償で提供する医療機器、便益労務等
が挙げられています(本規約第4条)。
医療機器を購入する見返りに、メーカーの営業マンから医師が旅行券をもらうことになれば、違法な景品類の提供といえるでしょう。
本告示は、あくまで事業者(メーカー)を対象とするものですから、受け取った医師を罰するものではありません。
ただし、事業者は、本規約の存在を重く見ており、違反した場合には厳しく対処することが通例です。本規約を守れないようでは、市場の信頼を失ってしまうと考えているのでしょう。
他方で、医師が、臨床研究などの目的でメーカーから資金を受け取ることはよくあることです。
資金を受けることそれ自体が違法なわけではありません。受け取る医師からすれば、この金員は受け取ってよいのかと迷うこともあるかと思います。
本規約で禁止されているのは、医療機器の取引を不当に誘引する手段としての景品類の提供ですから、
ポイントとなるのは、景品類の提供の目的となります。ただ、実際のところは、目的として割り切れないところがあるでしょうし、
それゆえか、冒頭触れた贈収賄罪の事件や公正競争規約違反の事例は、引き続き発生しています。
もしメーカーから金員の提供を受ける場合に、その提供について疑問に思うことがあれば、弊所までご相談いただければと思います
<文責:大江弘之>
