大腸ドック体験から考える、健康診断専門クリニックの法的ポイント
大腸ドック体験から考える、健康診断専門クリニックの法的ポイント
医療機関の支援をしていると、医師から健康診断の重要性を説かれることがあります。
健康診断は、自覚症状のない状態で受診するものですから、どうしても後回しになりがちです。
しかし、今回は医師の勧めに従い、人間ドック、とりわけ大腸ドックを受けることにしました。
■ 大腸ドック体験記
前日は消化の良い炭水化物中心の食事。おかゆや素麺だけでは体に力が入らず、仕事の効率も落ちます。幸い、同期から「前日は面談を入れない方がいい」と助言を受けていたため、静かな一日を過ごしました。
当日は絶食のうえ、2時間かけて2リットルの下剤(ニフレック)を服用します。改良されているとはいえ、薄く甘いスポーツドリンク味はなかなかの試練です。レモン汁を加えると飲みやすくなる、という医師の助言は確かに有効でした。
その後はトイレとの闘いです。家族からの不満をなだめながら波をやり過ごし、ようやく落ち着いた頃に病院へ。
軽い鎮静下での検査中、診察室にはオルゴール版の宇多田ヒカルさんのBGM。
「Time will tell」が流れる中、医師から「とても綺麗な大腸ですよ」と褒められました。
「滅相もございません。」と謙遜すべきか、「先生の大腸はきっときれいですよ。」と褒め返すべきか、
返答に困りながらも「おかげさまです」と答えたことを覚えています。
ある意味では処方された下剤のおかげできれいだったので、大きく間違ってはいないのかもしれません。
結果は異常なし。
腫瘍が見つからなかった安堵感は何ものにも代えがたいものでした。
ただ、検査後も消化の良い食事を続ける必要があり、丸二日は業務を軽くしておくのが無難だと実感しました。
■ 体験から見えた「健診ビジネス」の本質
受診者として体験して改めて感じたのは、健診は「医療」であると同時に「サービス」でもあるということです。
待ち時間、接遇、BGM、検査説明の丁寧さ――
いずれも安心感に直結します。
これは健康診断専門クリニックの経営において、極めて重要な視点です。
■ 健康診断専門クリニックの法的・経営的ポイント
1.自由診療モデルの資金構造
健康診断は原則として自由診療です。
窓口支払いが中心であり、診療報酬請求のタイムラグがないため、資金繰りは比較的安定します。
もっとも、受診者数がそのまま売上に直結するため、稼働率の維持が生命線となります。
資金繰りが窮して返済が滞る場面では、金融機関や取引債権者が診療報酬を差押えるケースがあり、それは業務の即時停止を意味します。
再生手続をするうえでも大きな障壁となる場合が多いです。
しかし、保険診療債権が主たる資産ではないことは、万一法的再生手続に入る場合の資金構造にも影響します。
2.固定費型ビジネス
CTや内視鏡などの高額医療機器、人件費、内装投資、マーケティング投資
健診施設は固定費が重い構造です。
経営の本質は「回転率管理」にあります。
3.法人契約の確保
企業健診や健保組合との契約は、安定収益の基盤です。
BtoB営業力は、医療技術と同等に重要な経営要素といえます。
4.体験価値と法的責任
健診は比較検討される医療です。
内装やサービスの差別化は重要ですが、その一方で広告規制や誇大表示の問題には十分留意する必要があります。
特に注意すべきは「見落とし責任」です。
健診では、救急医療のような急性リスクは少ないものの、異常所見の見落としが後に重大な損害賠償問題へ発展することがあります。
二重読影体制や説明義務の履行、結果報告書の明確化など、品質管理体制の構築が不可欠です。
5.景気耐性
自由診療である以上、景気変動の影響を受けやすいという側面もあります。
価格帯の多層化やオプション設計など、柔軟な商品戦略が求められます。
■ まとめ
今回、自ら受診者として体験してみて、健診医療の重要性と同時に、その繊細な経営構造を実感しました。
健診専門クリニックは、比較的医療過誤リスクが低いといわれる分野ですが、
見落とし責任、広告規制、法人契約管理、個人情報管理など、法的論点は少なくありません。
医療の質を維持しつつ、持続可能な経営を実現するためには、
医療と法務の双方からの視点が不可欠です。
忙しい日々の中でも、まずは自らの健康管理から。
そして医療機関としては、制度とリスクを踏まえた設計を。
それが、健診ビジネスを長く続けるための基盤になると感じています。
〔文責 片山敦朗〕
