日本の医療制度の特性について
日本の医療制度の成り立ちと特性
日本の医療制度の特性は、大きく3点に整理できます。第一に「国民皆保険制度」を採用していること。第二に、診療所と病院を機能ではなく病床数によって区別していること。そして第三に、「フリーアクセス制度」(病院にも外来があり、診療所を通さず直接受診できる)を採用している点です。さらに、日本の医療提供体制は基本的に民間医療機関を中心に構成されています。
このような制度が形成された背景には、明治以降の近代医療制度の導入があります。明治7年に発布された「医制」を皮切りに、西洋医学の普及が進み、一定の教育を受けた医師に免許を与える制度が整備されました。免許を持つ医師が必要な設備を備えれば、どこでも病院や診療所を開設できるようになり、病院と診療所の区分は「病床数」で決められるようになりました。
日本は山が多く、地形的に交通が不便であったため、各地域に小規模な医療機関が分散して設立されました。また、富国強兵政策のもと、社会資本の整備を民間に委ねたことにより、民間医療機関中心の体制が形成され、個人経営の中小病院が多く存在するようになりました。
国民皆保険制度と規制による影響
1961年に「国民皆保険制度」が導入され、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入する仕組みが整いました。同時に、病院に対しては病床規制・施設基準・診療報酬の厳格な管理が行われるようになりました。その結果、日本の医療業界は資本主義社会の中でありながら、社会主義的な色合いの強い特殊な構造を持つようになりました。
自由競争が制限されているため、病院経営における改善策や統廃合が進みにくくなっています。特に、急速な少子高齢化による人口減少が地方で進行しており、地域医療を支える中小病院の経営が困難化しています。これが日本の医療行政における大きな課題の一つといえるでしょう。
中小病院を取り巻く現状と今後の展望
新型コロナウイルス感染症の拡大期には、民間病院が多い日本の医療体制の脆弱性が露呈しました。思うようにコロナ病床を確保できなかったことから、厚生労働省は中小病院の病床数を削減し、医療資源を効率的に再配分する政策を進めています。
しかし、自由競争が制限された制度の中で、病床数を減らしつつ経営破綻を防ぐ「ソフトランディング」を実現することは容易ではありません。現状、厚生労働省は診療報酬を抑制することで、中小病院の淘汰をある程度容認しているとみられます。
今後は、地域に根差した中小病院がどのように生き残るかが大きな焦点となります。当事務所では、こうした厳しい環境の中で、中小病院経営者の良き相談相手として、法務・経営両面から支援を行ってまいります。
〔文責 片山卓朗〕
