コラム

ロボット医療の法律問題

外科手術用ロボットの「ダヴィンチ」などロボット医療は近年急速に普及しており、すでにロボット医療を導入していたり、これから導入を検討されている病院・クリニックも多いのではないでしょうか。

ロボット医療により診断精度の向上や医療の効率化が見込まれる一方で、ロボット医療を導入するためには、複雑な機器操作や高度なトレーニングが必要とされます。また、ロボット医療により医療事故が起こった場合、誰がどのような責任を負うことになるのか不安になることもあると思います。

今回の記事では、ロボット医療による医療事故が発生した場合、誰がどのような責任を負う可能性があるのかについて、説明したいと思います。

 

1 医療事故発生時の責任

ロボット医療による医療事故が発生した場合、主として、①医師、②病院、③製造メーカーが責任を負うことが考えられます。責任の種類としては、民事上の責任と刑事上の責任が考えられますが、いずれの責任も、責任が認められるためには、原則として過失があることが必要となります。

 

(1)民事上の責任

① 医師の責任

ロボット医療に限らず、患者が医療機関を受診し、医師がこれに応じることにより、医療契約が成立します。診療契約に基づき、医師は、患者の治療をするに当たり、医療水準に照らした最善の注意を尽くす義務(善管注意義務)を負います。この義務に違反した場合、医師は、診療契約上の義務違反、又は、不法行為を根拠にして、責任が問われることになります。ロボット医療においては、医師による手術時のロボット操作のミスや判断ミスが原因で医療事故が起こった場合、手術を行った医師は、患者に対して、損害賠償責任を負う可能性があります。

また、診療契約に基づき、医師は、患者に対し、診断の内容や診療方針について説明する義務を負います。そのため、医師は、治療を行うに当たり、ロボット医療の導入の必要性や従来治療との比較、未知のリスクなどを十分に説明し、患者の同意を得ることが求められます。この説明が十分に行われず、医療事故が起こった場合、説明義務違反を理由に、損害賠償責任を負う可能性もあります。

 

② 病院の責任

医療法により、病院・クリニックは、医療の安全を確保するための措置を講じることが義務付けられています。そのため、ロボット操作の研修不足や機器管理不備などが原因で医療事故が起こった場合、病院が医療の安全を確保するための義務に違反した場合、病院・クリニックは、損害賠償責任を負う可能性があります。

また、病院・クリニックの従業員である医師が、患者に損害を与えた場合、病院・クリニックもその医師と連帯して損害賠償責任(使用者責任)を負うことになります。そのため、従業員である医師が手術時におけるロボット操作のミスや判断ミスが原因で医療事故が起こった場合、クリニック・病院は、使用者責任により、医師と連帯して、損害賠償責任を負う可能性があります。

 

③ 製造メーカーの責任

ロボット医療を行う場合、医療機器の不具合が原因で、医療事故が起こる場合も想定されます。医療機器が、製造物責任法の製造物に該当し、当該医療機器の欠陥が原因で、医療事故が起こった場合、医療機器を製造したメーカーは、損害賠償責任を負うことになります。この場合、メーカーに過失があるかどうかは問題とされず、医療機器の欠陥によって医療事故が発生したことが認められれば、メーカーは責任を負うことになります。

もっとも、製造物責任法は、有体物である「製造物」の欠陥が原因で損害が生じた場合の責任を定めた法律であるため、AIソフトウェアは有体物ではなく、「製造物」には該当しないものと考えられています。そのため、医療事故の原因がAIソフトウェアにある場合、製造物責任法ではなく、民法の不法行為により、メーカーに過失が認められれば、損害賠償責任を負う可能性があります。

 

(2)刑事上の責任

医療事故の場合、刑事上の責任として、業務上過失致死傷罪(刑法211条)の罪に問われる可能性があります。業務上過失致死罪の罪に問われ、判決が確定した場合、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が科されることになります。

 

2 ロボット医療による医療事故の事例

ロボット医療による医療事故について裁判で争われた事例として、2019年4月に、米子市の鳥取大学医学部附属病院で手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使用したロボット支援手術を受けた患者が、医療ミスなどにより後遺症を負ったとして、鳥取大学に対し、1億7500万円の損害賠償を求めたものがあります。

報道による患者側の弁護士の主張によれば、鳥取大学医学部附属病院は手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使って、患者の胸部にある腫瘍を切除する手術を行った際、執刀医のミスにより脳に血液を送る血管を損傷し大量出血させた上、輸血が遅れるなどした結果、患者は長期にわたる治療とリハビリを強いられ、高次脳機能障害や呼吸機能障害の後遺症を負ったということです。

報道によれば、鳥取大学が患者に対して、解決金1億5000万円を支払う内容の和解により裁判は終了したようですが、解決金の金額から推測すると、判決になった場合、病院側に何らかの過失が認められた可能性が高かったのではないかと考えられます。

 

3 まとめ

ロボット医療により医療の質と効率の向上が期待される一方、ロボット医療は新しい技術であることから、導入にあたり必要な技術の習得や、クリニック・病院内での組織的な安全対策を実施する必要があります。また、万が一、ロボット医療による医療事故が発生した場合、ロボット医療の特徴を踏まえた対応が必要になります。

弊所では、ロボット医療についてのご相談をお受けしております。ロボット医療についてお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。

 

(文責:内藤)