コラム

医療機関におけるカスタマーハラスメント・ペイシェントハラスメントの留意点

近年、医療現場におけるカスタマーハラスメント(いわゆる「カスハラ」)の相談が増えています。

患者さんやご家族からのご意見・ご要望は、医療の質を高めるために大切なものですが、

行き過ぎた言動や理不尽な要求となると、現場の医師・看護師・事務職員の心身を大きく傷つけ、業務に支障をきたすことになります。

医療現場のカスハラは、一般的な接客業とは異なる特徴があります。

以下は医療機関ならではのカスタマーハラスメントの難しいポイントを挙げていきます。

  • 応召義務があり、他サービスのように「出禁」がしにくい前提

例えば飲食店やホテル・旅館業の場合には、カスタマーハラスメントに対する有効策の一つに顧客の利用停止、いわゆる出禁があります。

しかし、医療機関では応召義務があり、正当な理由なく診療を拒めないという応召義務があります。

医療機関からの相談でも、応召義務との兼ね合いで悩む医師からの声が多くあります。

一般企業のように「利用をお断りします」という即時措置が取りにくい点が、最大の特異性です。

この点は、医療機関において「正当な理由」を正しく把握して活用することが大事になります。

 

2.「医療は善意で動くべき」という社会的期待と、医療関係者のモラルの高さ

「医は仁術」といわれるように、医療は単なるサービス提供とは違う「道徳的期待」が強くかかっているといえます。

医療機関からご相談を受ける中でも、他のサービス業ではありえないような要求をする利用者がいることに驚くことがあります。

これは教育機関においても似たような事例があります。

 

そして、医療関係者においても患者のために働きたいというモラルが非常に高いため、裏を返すと他の業種よりも毅然とした対応が苦手な方が多いといえます。

 

こちらについては、「医を仁術」と考えつつも、

その仁術に応じる顧客かどうかを見極めることが大切になります。

 

3.守秘義務による「対抗困難性」

この点も医療機関の難しいところです。

飲食店や宿泊施設の口コミに対しては、飲食店側からの反論コメントが有効なケースがあります。口コミをしている方が理不尽な要求をしていたことを店舗側から反論することで、他の顧客の理解を得られるようになりますし、そのような反論があることが抑止力につながります。

しかし、医療機関においては、強い守秘義務があるため、口コミをした方の個人情報に係る部分について反論がしにくい構造にあります。

一方的に攻撃されても、防御が限定される

という非対称性を生みます。

他業種では事実関係の公表で沈静化できる場合もありますが、医療ではそれが難しいのです。

この点も、守秘義務との兼ね合いで適切な反論の仕方をつかむことが有用です。

 

4.重大な医療結果という重み

医療は生命・身体に直結します。

結果が重大であるため、感情的対立が激化しやすく、不満が紛争・訴訟に直結しやすいといえます。

店員の物言いが横柄だった、待ち時間が長かったという単なるサービス不満ではなく、人生に影響する結果が絡むことが、医療カスハラの深刻化要因です。

宿泊料金や飲食料金に比べて大きくなりやすいため、経済的な損失の規模から、紛争コストが相対的に小さくなるため、訴訟等につながりやすいといえます。

それは裏を返せば、その点が頭によぎる医療従事者にとって、対応の難しさにつながります。

 

5.多数の利害関係者が存在する

医療では患者本人だけでなく、家族や後見人など多くの関係者が存在します。

患者本人とはいい関係性を結べていたとしても、その一部のご家族との対応から調整が困難となる場合があります。

複数への対応が必要となるため、説明対象が拡大する労務負担の増加や

患者本人と関係者との対立がストレスとなって医療機関が巻き込まれる場面もあります。

 

クレームの当事者が複数になる点も、医療機関でおきるカスタマーハラスメントの特徴といえます。

 

これらの医療機関ならではの特徴を把握し、それぞれに留意点をつかむことが

医療機関におけるカスハラ対策となります。

次稿では、具体的な対策について記載します。

 

カスタマーハラスメントは、どのように対応するかも大事ですが、だれが対応するかという点も大切な観点です。

顧客の要求がエスカレートした場合でも、弁護士からの内容証明郵便による通知を活用したり、マニュアル作製や研修を利用することで、うまくアウトソーシングをすることが肝要です。

 

【文責 片山敦朗】