遺留分侵害額請求
医療機関で相続が発生した場合、一般の相続とは異なる特有の問題が一気に顕在化します。
医療法人の出資持分、MS法人の株式、診療所不動産の所有関係、医師と非医師の相続人間の利害調整、さらには納税資金の確保――。
これらは単なる「財産分け」の問題ではありません。
医療機関の継続性、経営の安定性、そして家族関係そのものに直結する重要課題です。
こうした紛争を未然に防ぐための有効な処方箋の一つが、遺言による承継設計です。
もっとも、遺言を取り巻く法制度は、2019年の民法改正によって大きく変わりました。
とりわけ遺留分制度の見直しは、医療法人の持分やMS法人株式といった「分割しにくい財産」を承継する場面において、実務上重要な意味を持ちます。
では、この改正は医療機関の承継にどのような影響を与えるのでしょうか。
本稿では、2019年改正のポイントを踏まえつつ、医療機関における相続の実務上の留意点を整理します。
遺留分侵害額請求とは、被相続人の遺言や生前贈与によって相続分が著しく減少した場合に、一定の法定相続人が最低限保障された取り分(遺留分)を金銭で請求できる制度です。
遺留分が認められるのは、配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属であり、兄弟姉妹には認められていません。
遺留分の割合は民法第1042条に定められています。
例えば、配偶者と子1人が相続人の場合、遺留分はそれぞれ4分の1ずつとなります(子が複数いる場合は、その4分の1を子の人数で按分します)。
請求方法と時効
遺留分侵害額請求は、法律上、特別な方式が定められているわけではありません。しかし、
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相続開始および侵害を知った時から1年
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相続開始から10年
という消滅時効があるため、請求の事実を証拠として残すことが極めて重要です。
実務上は、内容証明郵便により請求を行うことが一般的です。
2019年民法改正の重要な変更点
令和元年(2019年)7月の民法改正により、それまでの「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」へと変更されました。
最大の違いは次の点です。
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旧制度(遺留分減殺請求)
→ 財産そのものの返還を求める制度 -
新制度(遺留分侵害額請求)
→ 侵害額相当の金銭支払いを求める制度
この改正により、事業承継や法人持分の承継における実務上の安定性が大きく向上しました。
医療法人の相続における実務上の留意点
医療法人の持分(※持分あり医療法人の場合)は、相続財産に含まれます。
しかし、医師ではない子どもがその持分を取得した場合、
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経営に関与できない
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配当を受けられない
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それでも相続税の課税対象になる
という状況が生じることがあります。
結果として、実質的に「負の遺産」となる可能性も否定できません。
そのため、
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医師である子に医療法人の出資持分を承継させる
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他の相続人には現預金等の流動資産を承継させる
といった遺言設計が有効となります。
そして現在は、仮に遺留分侵害が生じたとしても、金銭で精算が可能です。
そのため、遺留分対策としてのキャッシュ準備の重要性は以前よりも高まっています。
また、相続開始前から、出資持分無し法人への移行の検討が必要となります。
遺言書作成の重要性
相続対策としては、適切な遺言書の作成が不可欠です。
遺言書には
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自筆証書遺言
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秘密証書遺言
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公正証書遺言
の3種類があります。
形式不備による無効リスクや証拠力の観点からは、公正証書遺言での作成が最も安全性が高い方法といえます。
まとめ
医療法人の相続では、
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法人持分の承継
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遺留分対策
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納税資金の確保
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家族間の紛争予防
を総合的に設計する必要があります。
当事務所では、遺言書作成支援をはじめ、医療法人に特有の相続対策について実務的な観点からサポートしております。
早期の対策が、将来の紛争と経営リスクを未然に防ぎます。
〔文責 片山敦朗〕
